2015年5月13日(水) 9時30分~12時30分まで札幌で開催したナガラートナ先生の講演のリポートです。

インドより初来札されたナガラートナ先生の通訳として2日間の日程を同行致しました。
午前中に東京講演会を終えた先生が雨の札幌に着いたのは夕方でした。

幹事長と空港へお出迎えに行ったのですが、外は肌寒かったので、
来日後連日にわたって講演が続いていた先生の体調が気になっていました。

到着ゲートから出てきた先生は私たちの姿を確認すると
にっこり微笑まれて手を振っていたのですが、ふと目線を足元にずらすと裸足にサンダルというインドと変わりない装いでした。
思わず「大丈夫ですか?」と声をかけましたが、先生は全く気にせず「大丈夫、大丈夫」と笑顔で返されたのでした。

その後、札幌市内へ向かい食事をしてホテルまで送ったのですが、部屋でトラブル発生。パソコンのネット回線が接続できず試行錯誤リトライしますがうまくいきません。
先生は日本語がわからないため、ホテルスタッフに対応してもらうなど時間を要しました。
その間先生はお疲れのはずでしたが、ふと外の風景を眺めて「あれは何?」と指さした方向を見ると、札幌テレビ塔がありました。
パソコンに右往左往して、外の風景を見る余裕など全くなかった私でしたので、雨夜に光るテレビ塔がいつもより綺麗に見えたのでした。
その後、無事にネット回線も繋がり私と幹事長はホテルを後にしました。

翌朝、約束の時間に先生を迎えに行くとフロントにもお部屋にもいらっしゃらず、レストランで朝食を召しあがっているところでした。召し上がっていた朝食は、サラダと果物という簡単なお食事。

前日の食事の際にもお話しされていましたが、サットヴァな食事を実践されているので
時間帯やその後のスケジュールで何を食べるかを決めるそうです。
これは、体の質を、ヴァータ、ピッタ、カパという3性質に分けて考えるアーユルヴェーダ理論に基づきます。

心の質も、サットヴァ、ラジャス、タマスという3性質があると考えられています。

サットヴァは考える力や計画する力、起床する意欲を与え、
ラジャスは働く意欲、物事を推し進める力などを与えてくれます。
タマスは休息する気持ち、止まる力を与えてくれます。

このような性質は食べ物も同じと考え、朝はサットヴァな性質のものを食べ
夜はタマスな食べ物を食べることが理に適っているとされています。

ですから、講演を控えている先生はタマスな食べ物で眠くならないように、サットヴァな食べ物である、新鮮な野菜、果物を朝食に採っていたそうです。

普段、思考が先に立って何を食べるかを決めてしまいがちな私ですが、こうした理論に基づいて食べる物を決めることは、自分の体の状態を良く把握していることが不可欠でありとてもヨーガ的な決定の仕方と感じました。

さて、会場へ着くと既に参加者が集まっていました。
講演での通訳は今回が初めてとなる私の緊張もピークでしたが、先生が講演開始前に「日本の歌を歌って下さい」とリクエスとがあり、みなさんが「春が来た」を歌うという和やかな雰囲気でスタートして下さったおかげで、私も緊張がほぐれました。

講演では、「健康とは何か」をテーマに、現代病に対して人間五臓説に基づいた各次元の関連性、心とストレスの関係を説明されました。

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「心のスピードが速くなることでストレスとなるが、その心を制御するマスターは自分であることを忘れてはいけない。心を制御すること。それがヨーガである。」

また、人間五臓説から見たヨーガを解りやすい例として次のようなお話しをされました。

「あるところに、とてもお金持ちの男性がいました。
その男性には4人の奥さんがいました。
4番目の奥さんは、とても美しく、賢く、寛容でした。
3番目の奥さんも賢く、寛容でした。
2番目の奥さんはとても知能的でしたので、彼が何かをするときに相談相手となりました。
最初の奥さんは、歳をとっていて痩せていたので、彼はあまり気に留めない存在となっていました。

やがてその男性は年を取りました。
死期が迫まっていることを悟った男性は、
死の世界に旅立つことをとても寂しく思っていました。

そこで彼は枕元に4番目の奥さんを呼び「私はひとりで死に行くのがとても寂しい。一緒に死の世界へ行ってくれないか。」と4番目の奥さんに問いかけます。

すると4番目の奥さんは「まだたくさんのやることがあります。私は行きませんのでどうぞお一人で旅立ち下さい。」と言って断りました。

それでも寂しく思う男性は、次に3番目の奥さんを呼びました。
「私は死の世界に行くのが寂しい。一緒に行きましょう。」と3番目の奥さんに言いますが、やはり3番目の奥さんも「一緒に行きません。」と断ります。

男性は2番目の奥さんを呼びました。「今まで、申し訳なかった。どうしたら私と一緒に死の世界へ行ってくれるだろうか?」と懇願するも、2番目の奥さんにも断られました。
すると、後方から「私が一緒に行きます。」と声が聞こえ、ふりむくとその声の主は、彼が全く気に留めてなかった最初の奥さんでした。

ここに出てくる4人の奥さんは、全て私たちの中に存在するものです。
4番目の奥さんは、肉体ですが、死の際には肉体を置いていかなければなりません。
3番目の奥さんは、家や財産といった所有物であり、これも持って行くことはできません。
2番目の奥さんは、友人ですが、友人も連れて一緒に行くことはできません。
これらは持って行くことができないのです。

ただし唯一、一緒に旅立つことができるものがあります。
それは、私たちの魂であるananda(真我) なのです。
このanandaは死ぬことはないのです。
このanandaの存在を知ることがヨーガなのです。」

とても解りやすいお話しですが、とても印象的なお話しでした。

3時間に及ぶ講演でしたが、先生の言葉を通訳している最中に、隣で先生がヨーガの呼吸法を始めた瞬間がありました。
通訳し終えるとまた講義に戻ったのですが、講演中に数回行っていたのでちょっと気になっていました。

後の会話の中で、これは“眠気冷まし”のための呼吸法だったそうです。
呼吸法も日常生活の中で自然発生的に取り込まれていることを感じると同時に、
先生の疲労も感じたのでしたが、そんな心配とは裏腹に、札幌講演を終えた後は、次なる講演地である福岡へと旅立たれました。
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さて、私自身の体験として今回初めて講演という公の場での通訳となりました。
今まで、対個人としての通訳などは経験あるものの、専門分野での通訳は初めてとあって、担当することが決まってからは相当なプレッシャーとなりました。

個人的に学習は続けていたものの、通訳を見据えた勉強法は全く異なり、
仕事、家事、育児を中心とした生活の中で、隙間時間は全て学習時間にあてました。
時に、そのプレッシャーに追い詰められ、断るべきかと脳裏をよぎりました。

そんな時思い出すのが、YICの講義で受けた「カルマ・ヨーガ」の内容です。
カルマ・ヨーガでは、「人間万事塞翁が馬」の如く、一喜一憂せず、ただ目の前にある仕事に集中してこなしていく。行為の結果さえも放棄することが教えられています。

ストレスマネージメントとしてヨーガの智慧が役立つことを実感したのでした。

最後に、このような貴重な経験を与えて下さった木村慧心先生を始め、寛容にフォローして下さったナガラートナ先生、色々な形でサポートして下さった日本ヨーガ・ニケタン、日本ヨーガ療法学会、両スタッフのみなさん、ヨーガ療法士会北海道の幹事長とみなさん、そして、家族と友人たち。

周りのサポートがあったからこそ、この任務を終えるとができたことに感謝の言葉しか思い浮かびません。
みなさん本当にありがとうございました。

【文責:ヨーガ療法士 砂川圭子】